2012年度ハチクマ・ウォッチングを終えて
日本野鳥の会福岡 代表 小野 仁
1.今年はピークが3回
片江展望台では、本年度も9月8日(日)~10月8日(月)の1ヶ月間にわたって“ハチクマ秋の渡り連続調査”を実施しました。図―1には、2000年からの記録を示しましたこれによると、今年の確認数は4663羽で、平均的な確認数ではないかと思っています。
図―1 確認されたハチクマの個体数(2000年~2012年)
今年の確認数を日別にし、図―2に示しました。これによると、9月26日に最も多くの943羽を確認し、26日から27日の3日間で1,881羽のハチクマを確認しました。
図―2 ハチクマの日別確認数(2012年9月8日~10月8日)
2.今年のピークは少し遅かったようです
下図は、過去10年間の記録を、5年ごとに分けて比較したものです。2003~2007年の5年間に比較して2008~2012年の方が、ピークが遅れているようです。気候変動との関連は明確ではありませんが、今後の調査で確認したいと思っています。
図-3 過去10年間の確認状況の変化
3.山口、福岡で比較すると
昨年までの記録では、長野県白樺峠で確認した個体は、3~4日後の福岡にやってくるものと想定していました。同じように、広島を午前中に飛去すると、同日の午後に片江で、午後に確認した個体は翌日に確認できるものと考えていました。火の山(下関市)や皿倉山(北九州市)で確認された個体は、同日に片江展望台で確認できると思っていました。
図-4には、火の山、皿倉山、片江展望台の記録を示しました。これによると、9月18日、19日は日の山での確認個体数が多く、20~22日では、皿倉山が最も多くのハチクマを確認していることが分かります。
図-4 火の山、皿倉山、片江展望台での確認個体数の比較
図―5には、3地点の20~22日の記録を示しました。
図-5 3地点の確認個体数の比較(9月20日~9月23日)
これによると、この3日間の記録では、片江展望台の2倍を火の山で確認しており、その途中に位置する皿倉山は、火の山の2倍、片江の3~4倍の個体を確認していることになります。
過去に東京大学が実施した追跡調査の結果などでは、福岡市周辺での渡りルートは、幅30~40km程度だと言われています。片江展望台で双眼鏡や望遠鏡で体長60cm、翼開長130㎝のハチクマを確認できる範囲は、せいぜい3~4kmですから、ルートの1割程度だと推測されます。それにしても、例年と傾向が違う理由が見出せませんでした。
4.何時ころ飛んでくるの?
多くの個体を確認した9月26日から28日の3日間の記録を、一覧図として図-6にしめしました。これによると、27,28日は10時~11時及び12時~13時に2つのピークが見られました。26日にはこの時間帯にピークは見られず、13時から15時に明らかなピークが見られました。
図-6 9月26日~9月28日の時間ごと確認個体数(30分毎)
今年の調査では、大きな群れよりも単独で飛ぶのをしばしば確認しました。特に、強風などの折には、この傾向が更に明確でした。ハチクマの渡りは、基本的には単独行動であり、上昇気流に集まって来たハチクマが一緒に移動することから群れで飛ぶような錯覚していると考えていました。今年の調査は、これを裏付ける結果になったと考えています。
また、昨年と今年の30分毎の平均確認個体数の記録を図-7に示しました。これによると、昨年度までは見られなかった3つのピークが明確になっています。ますます、「何時頃に多いのですか?」との問いに、どのようにご返事すれば良いのかが難しくなったような気がします。
図-7 9月26日~9月28日の時間ごと確認個体数(30分毎)
5.ハチクマは気まぐれ?
慶応大学は、平成24年にハチクマ4羽(青森県3羽、山形県1羽)に発信機を装着して放鳥しました。その記録をリアルタイムで発信し、全世界の研究者や観察者がこの記録に感動しました。
図-8 ハチクマの移動コース(慶応大学調査記録)
4個体の移動コースはおおむね一致しているように見えますが、山形を出発した個体(YAMA)は、途中で休憩しながら移動しました。特に驚いたのは、四国から天草に移動し、このまま東シナ海を渡ると思っていたところ、なんと西海橋に向けて北上し、針尾島周辺に2日間滞在し、そして通常のルートの合流する動きを見せました。
また、唯一の♀個体NAOは、スタートものんびりしており、途中でもふらふらしながら移動しました。また、この個体は福岡県宮若市の力丸ダムのダムサイトに3日間滞在しました。なんとも、我々の想像をはるかに超えており、渡りに関する仮説を再度立て直す必要があるとものと感じています。

9月26日に確認したタカ柱 この群れ中の♀成鳥
6.おわりに
城南区の環境リーダーの方々や片江公民館の方々など、団体として登ってこられた方、個人的に「城南区役所で情報を見てきたよ」、「市政だよりで見ました」という方など、観測期間中、大変多くの方々が片江展望台にお見えになりました。
片江展望台で観測を開始して20年を超えました。当初は少人数で観測していたのですが、お彼岸の前後に多くの個体が渡っていくことが分かり、年々観察者が増加しています。タカが生態系の頂点に君臨しているため、この個体数の変化が環境を表しているとの思いから観測を継続しています。
今年の結果では、①タカは基本的に単独で移動すること、②途中で数日間休憩することがある、③わずかな気候変化で渡りコースが変化する可能性があること、④渡りの集中する時間帯(ピーク)が変化に富んできたことなどが分かりました。これは、ハチクマの渡りはまだまだ不明なことばかりであり、仮説を立て直すことが必要であることを示しているものと思っています。
一方、このような自然のドラマが城南区の上空で繰り広げられていることは、城南区の財産であることから、これを一緒に見たいとの思いから観察を続けています。
また、片江展望台でお会いしましょう!